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『学校3』~山田洋次のリアリズム

「山田洋次をなめてはいけない」とよくいうのだけど、イマイチ誰も親身に聞いてくれない。 学校3、これが本当に凄い。これほどハードな映画、「エルトポ」以来だ。本当にいいことがない。ここまでいいことがないと、文部省推薦とか、親が子供にいい映画としてみせるとか、社会的にいいイメージを持つ健全映画を超越している。ある意味世界残酷物語。 思うに、これは山田洋次が持つ演出力、リアリズムにあるんじゃないかと。

例えば、感動的な作品、ハウス名作劇場系、「フランダースの犬」とか、ああいうのでよく泣けるって話聞くけど、あれは、アニメっていうことのほかに、外国という設定に負うところが大きい。つまり、暖炉の前でチーズ食ったりとか、我々の茶の間とは隔絶した、リアルじゃない設定が、かわいそうとか、哀れだとか、そういった感情を他人事として、モニターの向こうに追いやるからこそ、あっけらかんとお茶でも飲みながら泣くことが出来る。おしんとかも、あの手のNHKモノっていうのも、奉貢とか戦争とか、過去の思い出として美化された、いまでは体験できないからこそ、無責任になれるのね。だからNHKは現代物の数字とれないっていわれると思うんだけど。あれが団地の隣の家の話だったら、本当ブラックだよ。それが学校3。

過去の学校1・2にはない、笑いの少ない暗い作品。零細企業の事務をリストラされた大竹しのぶと、大企業でリストラされた小林稔侍。障害を持つ黒田勇樹。冒頭で以上が判明するが、ここまででもうブルーになる。カリカチュアライズする道化がいない。邦衛もいて、そういう役は専らケーシー高峰(カマ!)が請け負っていて、いい味だしてるんだけど、西田敏行のようにはいってない。山田洋次作品における西田の重要性というのをこのときばかり思い知らされたことはない。高木ブーとでも出てきて、ハワイアンでもやれば大分後味のいい作品になるんだろうけど(釣りバカ9ね)。

それにしても黒田が効いている。本当にリアル。山田洋次に障害児撮らせたら右に出るものはないかと。それは「バカが戦車でやってくる」の頃からあって、阿呆役の犬塚弘は、クレイジーの犬塚であることを忘れて、モノホンなんじゃないかと思ってしまうほど。前作学校2も圧巻で、山田洋次作品には欠かせない吉岡くんもリアル。ブラックの極み。

それらを助長するのがロケーションで、町の持っている気というか、そういうものがマッチングしている。今回は江東区の技術学校が舞台で、大竹しのぶの団地は赤羽方面。亀戸の駅も出てくる。もう隙がない。ベストロケーション。こういう設定の映画なら、どういうロケーションがマッチしていて(土地の属性)、どういうふうにランドマークを入れ込むか。何故映画はロケーションするのか、ということに言及できていれば自ずとわかることだけど、今の映画の多くはこのことすらわかってない(「アンドロメディア」はロケが本当に酷い)。

演出、ロケもさることながら、状況設定も見事。2ではスーパーモンキーズのライブに気球と、気の毒に思う状況が満載。3ではやはり熟年カップルの恋愛劇だろう。職を失ったものが職安で紹介されて職業訓練校に通う。半年の勉強の後、資格を取って就職。というなかで、稔侍としのぶが大人の恋に走るのだけど、団地で二人抱きあうしね。で、その間、黒田は事故るし、結局、稔侍は別居してる奥さん(秋野暢子)の自殺未遂でその奥さんにつきそって、しのぶとはわかれるんだけど、そしたらしのぶ、乳ガンでしょ。シャレになってない。

感心するのが、時間の処理のうまさで、半年という設定上の時間を、2時間強で、それもいいシーンを選びつつ、描写も甘くなってはいけない。ここら辺の処理が本当に上手い。日本映画きっちりやってきた人って、こういう技が本当に見事。気付いたら2ヶ月経っていたなんてことがざらだけど、見てる側は納得して時間を追えるし、映画の進行スピードに置いていかれることもない。それでいて、しのぶと稔侍の感情の流れもしっかり描かれている。脇役もフォローされている。自分にはできない芸当(しなくてすむ方法とってるけどさ)。こういうもの、今忘れられてるから、しっかり見て勉強して欲しい。


最後に、山田洋次演出のボケの演技も健在で、劇中、本当に良くコケる。黒田の新聞配達(!)中の自転車コケも見事。稔侍もコケるし、しのぶもコケる。稔侍コケたら皆コケた。

【初出:1999年9月10日】

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