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異能生存の存在証明(6)~装甲騎兵ボトムズ再考・最終回

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・ボトムズ的ハーフミラー

さあ核心に迫ってきた。キリコは何故、記憶を自ら思い出そうとせず、もしくはそういう思い出せない設定とされ、ただ彷徨っているだけで終わってしまったのか。彼だけが、歴史を背負わず、世界に相容れない異能者として、はじめから不完全性を証明する存在するのだとしたら、どうだろう。
歴史は、過去を証明する形で人々に付与される。ただ漠として、ビッグバンから現在の自分がいることの存在証明としている。過去が観測によってかえられるとすれば、人々の記憶そのものが疑わしいものとなってくる。記憶、あるいは記録というものが過去を証明する手段になっている(光源を見たという記憶、観測という記録、昔あそこに何々があったという記憶、地層からその地に以前何々があったとする記録)。
以上、現在・過去・未来という時間感覚のなかでは何を証明したところでそれは不完全なものでしかない。アストラギウス銀河の歴史然り、アレギウム然り、100年戦争然り。ロッチナでもペールゼンでもそういった歴史(世界史/自分史、体系)というあいまいな記憶の上で、あの世界の有り得べき一キャラクタとして、存在している。アレギウムなどは、信仰という崩壊まで揺らぐことのないハーフミラーをおいた歴史そのもので、ある意味、キリコがそのハーフミラーを壊したとも読める。
とすると、キリコが異能者たる所以というのは、ハーフミラーを持たないということになる。記憶をなくしている、歴史的体系を持たないのだから。不完全を地で行く彼はやはり、科学的体系の外にあるから、イデア論的な存在としては立現れず(レッドショルダー、PSはその点で頓挫している)、不完全な存在として、たとえば、レッドショルダーとしては不適当とされた。これらの仮説を妥当とすると、世界、存在といったものの不完全性の証明なのだから、どこぞのアニメみたいに「補完」とかそういう問題ではなくなってくる。そういうキリコのような存在は、アニメ(ビデオ/フィルム)のような記録媒体で保存されている時点で、記録・記憶の産物のなかのものだし、作品世界でもそのような不完全性の証明される土壌がない(アレギウム崩壊で大騒ぎなご時世だし)のだから、そりゃ、存在してはいけない。だから、時には異能者で、時には触れえざるものなのだ。
おや、では、彼をそういうふうにどうして規定できたのだろう。彼に対する他者のハーフミラーってどうやっておかれていたのだろう。いくらイレギュラーとは言え、その歴史上に存在していたことは確かだ。100年戦争の末期、フィアナに出会って、フィアナが死ぬまでの間は、世界の表舞台では知覚されていたのだから。
・・・そう、フィアナだ。フィアナと出会うことで、彼は様々に邪魔されるのだ。先を急いでいるだけなのに。先に現世利益みたいなことをいったけど、愛欲みたいなものが現世みたいな部分をつなぎ止めていたのかもしれない。とすると、フィアナがハーフミラー的役割を担う存在ということになるのではないか。キリコの不完全性はハーフミラーをおかない、記憶・記録のいうなれば向こう側の存在だが、それを証明(我々が確認、つまり知覚)するにはハーフミラーが必要で、ハーフミラーをどうおくかという、ハーフミラーそのものが非常に重要になり、現段階の我々では、ハーフミラーを置くということでしか視覚できず、手に触れられるもの(我々の手の及ぶ範囲にある媒体)から扱ってみるしかない。だって、ハーフミラーがなければ、記憶というもの、不完全性は立現れないのだから。アレギウムにとっても、ハーフミラーがなければ、異能者を触れえざるものにする必要はない。観測が過去をかえるのなら、ハーフミラーがなければ、キリコはマーティアルにとっては存在するはずもないものなのだから。
と、いうことは。そう、フィアナこそが触れえざるものだったのだ。


[了]


参考文献:
D・R・ホフスタッター『ゲーデル・エッシャー・バッハ』
JOCXTV+「アインシュタイン」
柄谷行人『批評とポスト・モダン
P・ヴィリリオ『速度と政治』

 



【初出:98年5月5日】

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