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映画『立喰師列伝』雑感~その1

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以下の『立喰師列伝』 に関する雑感は、自分の食べ歩きブログ で発表したものをちと加筆・訂正したもの。その後、未発表の文章を逐次UPしていく予定。


それにしても、蕎麦の不味そうなこと不味そうなこと!
戦後から語り継がれるプロの立喰師の偽昭和史をドキュメンタリー方式でコミカルかつクドクドしく描かれる映画なもんで、その舞台はガード下のコ汚い立喰そば屋だから、藪とかそういう一チョ前の蕎麦であるはずもなく、不味そうに見えて当然といえばいえる。
で、実際映画の中でも不味いことになっている。そばを提供する店のオヤジが「たかが蕎麦じゃねぇか」って自分で不味いと思って作ってるんだから、余計にタチが悪い。劇中のセリフにもあるように、八方ふさがりな状況である。とはいえ、曲がりなりにも食べ物が中心になっているのだから、次第に旨いものになっていく過程をドラマとして描くとかして、仕舞には旨そうになっていくものだが、食べ物の味自体についてはついぞ問われることはなく、最後まで蕎麦は不味そうなままだ。
それは、食べ物そのものではなく、食べるという行為、食べ物のある状況を、食べものを通してみえてくる風景を巡る映画だからなのだが、これまでの数少ない映画鑑賞歴から考えても、不味そうな映画はこれと『コックと泥棒、その妻と愛人』をおいて他に知らない。


俗に人間の三大欲求などといわれるものに伴う行為ってのは、どうにも間抜けというか、端からみてみっともないというか、動物的といえるような、実に人間の本来の姿であって、そもそもが浅ましくも卑しい存在なのだろう。そんな動物的に好き勝手やっていると、一人ならいいけど、沢山の人が共存する中では、他人同士が上手くやっていけないので、社会というか秩序を設けなくちゃならないんだろう。
人間元来がいい加減に出来ていて、それを否定することで協調を尊ぶのが社会であり、それを肯定するものが芸術である、というのは立川流家元の言だが、まぁ生き物を殺生して生き延びているんだから、人に胸張って堂々と言える行為じゃないなぁ。

それを社会的に正当化するにはいろいろ御託というか能書きを垂れないといけない。『コックと泥棒・・・』の主人公のオッサンは金持ちでグルメっぽいんだけど、高級レストランで下品な話ばかりしてるし、厨房じゃ豚とかバカバカ殺した残骸が転がってて、見た目は鮮やかでも内蔵ぶちまけたみたいな撮り方をした料理が供される。オチはまぁ一種のカニバリズムなのだけど、食ってのはこういうことなんだろうと。


『立喰師列伝』に戻そう。戦後の闇市の蕎麦は混ぜもんだらけで凡そ蕎麦といいがたい代物だったらしい。それでもちょっとでも蕎麦っぽいというだけで蕎麦食ってる気になれる。その気になれるってことが重要だったのだろう。
ラーメンの麺だって、工業用の苛性ソーダや、洗濯ソーダ(重曹)がかん水代わりに使われていた。ラーメンといえばかん水臭くないとラーメンという感じがしないという人もいるわけで、そういうちょっとした日常の食の嗜好からでも、戦後がそこに横たわり、そうした歴史の上に現在のかん水臭くない麺が成立していると感慨深く思う想像力は十分に働くだろう。


そんな混ぜ物からみえてくる風景は、実際に目に見える光景からも伺える。現在そのラーメン屋が建っている場所は、街は、以前なんだったのだろう。
飲食、とりわけラーメン店は不動産物件として臭いや脂の問題から空きがあってもラーメンはダメといったように、なかなか貸したがらない物件とされている。だから余程特殊な状況でない限り、幹線道路沿いなど余程広い土地でないと借り手の難しい立地だったり、水商売のお店が多い一角で他に行き場のない訳有が集う場所に集中しがちだ。特に東京では後者のケースがかつては多く、訳有でなくても、歴史的にそういった業態を受け入れやすい土地というのはある。大抵そういった土地というのは、三業地であったり、赤線があった場所であることが多い。


自分が食べ歩きに際して、土地や建物、その街といっしょに捉えているのは、食べ物を通して具体的にも概念的にもみえてくる風景というものに惹かれるからに他ならない。その意味で、映画『立喰師列伝』は自分が様々のことに問いを立てるようになった15の頃より抱いていた見方を見事に表現してくれた。できることなら、15の自分に会っていってやりたい。――まぁいろいろ世の中とうまくいかないことも多くて折れそうになるだろうけど、その都度オマエが決断してきたことってのは、そんなにブレてないぞ――


――――――――――


次から、映画論的(?)な方向の雑感を続けたい つづく..


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