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映画『太陽』雑感~後編

前回の続き


ヒロヒトの3日間を描くというとドキュメンタリータッチの印象を受けると思うが、先述したように内面的心情が吐露されたり他者の発語、あるいはナレーションなどの言葉によって補完されることはなく、状況、というより風景が切り取られているに過ぎない。
とはいえ、劇中全てがこれで覆われているわけではない。観た方には非常に印象的なシーンだったと思うが、とてもイマジナリーなヒロヒトのみる夢のシーンがある。東京大空襲と思しき、魚と化した爆撃機から焼夷弾が投下される光景が、炎揺らめく水の中からの右往左往する視点で描かれる。夢から醒めたのは午睡の後か、はたまた翌朝か、例の如く説明は一切ないのだが、まぁ常套に考えて夢の中の視点の主観は水の中の生物ということで考えるとナマズだろう。自分は最初、その揺らめく水面を水中から描かれる光景を見て、皇居の堀の中かなぁと思った。次第に空襲が激しくなり、夢だけに視点がダイナミックに切り替わり一種のジェットコースター的な激しさを増してきて、ちょっと様子が違うぞとは思ったが、ここがどこかとかそんなことはどうでもいいほど、これまでの映画のトーンとは異なり、非常に動的なシーンに仕上がっていた。
動きばかりではない。色彩もゴールドのような黄色いベースの色合いという点ではこれまでと大差ないが、黒が強いのだ。コントラストがきついというか。CG処理されているせいだと思うが、この夢のシーンとは別にも、マッカーサーに会いに連行されるシーンでの皇居外の廃墟が描かれている部分は、ガレキがやはり少々コントラストきつく映える。
これに違和を憶えても不思議ではないだろうが、自分はヒロヒトの日常的なる光景と、ヒロヒトにとって非日常的、つまり多くの国民(東京人)にとっての日常との差異という描き分けとして、逆に効果的だったんじゃないかなぁと思った。


もうひとつ、大きく印象的に演出されたシーンではないのだが、ラスト近くでヒロヒトが西洋の(だよね?)ドローイングを眺めるシーンがある。日常の1コマ的に描かれる時は大人が苦もなく両手で広げられる程の大きさの絵なのだが、カットが変わりヒロヒトの頭越しの画(おおまかにいえば主観ショットだろう)に変わると、図版の大きな絵に変わっていて、両手に広げて持つのもいっぱいいっぱいな程になっている。
こういうカットによる縮尺の違いなんて多く映画にはあるだろう。それを感じさせないように手が施されるのがフツーだが、ここでは明らかに故意に演出されている。まるでこどもが大きな世界地図でも広げて、熱心に見入るようである。そう、この映画ではヒロヒトを暫しこどものようだと表現させている。時に用地ですらある側面を誇張して描くことで人間ヒロヒトを演出しているのは一目瞭然で、その人間らしさを、子供っぽさに求めたり(あまつさえセリとしてマッカーサーなどに言わしめたり)、例えば桃井かおりに抱きつくシーンなど、あまりにベタな描き方に若干自分は辟易する部分はなかったわけではないが、そんな言動よりも、画を見入るヒロヒト、そのパースペクティヴという1カットで全てを現しているような気がしてならない。どんなセリフや演技よりも、グッとくる瞬間だった。


縮尺を変えてみせるファンタジー・・・この映画は史実を描くものではなくフィクションであり、ドキュメンタリーではなくアートであるのだろう。その意味で、映画としてイマジネーションを刺激させられる非常に楽しい2時間であった。


【了】


予断になるが、イッセー尾形は好演だったと思うが、どうにもヒロヒトというよりマギー司郎に見えて仕方ない瞬間があった。じゃあマギー司郎が演ればよかったのかというと、それは当然別問題で、演技ってのとは違ってくる。でも、映画の話とは離れるが、時折マギー司郎に哀愁を感じるときがある。マギー司郎の素顔に迫る的な番組を何度かみたことがあるが、若い頃のビンボー時代に食べたカツサンドかなにかをその店のカウンターで頬張る時の背中・・・東京に出たての頃に澄んだ下宿の跡地に佇む姿・・・マギー審司の活躍を喜びながらも、どこか寂しいあの、丸眼鏡の奥の瞳。その瞬間に、ある一定の年齢に達すると感じる、やるせなくも行き場のない漠とした哀愁は、イッセー尾形演じたヒロヒトに相通ずるものをみた気がしてならない。


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満 足 度:★★★★★★★★★        (★×10=満点)  監  督:アレクサンドル・ソクーロフ キャスト:イッセー尾形 、       ロバート・ドーソン 、       佐野史郎 、       桃井かおり 、       つじしんめい 、     ... [続きを読む]

受信: 2006年11月20日 (月) 07時35分

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