« 2007年5月 | トップページ | 2007年7月 »

「時間ですよ」を作った男―久世光彦のドラマ世界 雑感

「時間ですよ」を作った男―久世光彦のドラマ世界

Amazonで購入
livedoor BOOKS
書評/ルポルタージュ



故・久世光彦のドラマ全盛期といえば、「時間ですよ」「寺内貫太郎一家」といった水曜劇場のホームドラマ群となるわけだが、年齢的にその時代は自分が生まれて間もない頃で、記憶には殆ど残っていない。自分の年齢的に言えば、「せんせいの鞄」などのホームドラマ以外を除けば、本著でも触れられているが、お茶の間的ホームドラマというものがトレンディドラマという潮流により表舞台から引き摺り下ろされ、その後にリバイバル的に東京電話のTVCMなどでスポット的に復活したものを見るに止まるだろうか。
しかし自分にとっては、寧ろ間接的に久世ドラマで育ったと思しき、こういってよければ久世チルドレンによる様々のジャンルに潜在するエッセンスから感じえたものが、実は久世光彦という一人の演出家に結実したという衝撃の方がより、久世作品というものを意識させられるものだった。それは作り手側が恐らくは久世という演出家を意識してなくても、ちょっとしたところに現れるものだ。


思い出されるのは、ダウンタウンやウッチャンナンチャンが出演していた「夢で逢えたら」という番組中のドラマコントのコーナー。東京は根津の老舗扇屋で家族とその使用人?(的な扱いの拳銃を発砲する警察官、松本扮するガララニョロロ)が繰り広げる「いまどき下町物語」というドタバタホームコメディ。舞台設定も明らかに久世ドラマといったもので、メインのセットが食卓。しかもカメラ位置手前には誰も座っていないという久世スタイル。
松本がどこまで「夢で逢えたら」の番組づくりに関わっていたか知らないが、ベタな関西よりの笑いが好きなようにみえて、実は竹中直人、いとうせいこう、シティボーイズなどが参加していたRGS(ラジカル・ガジベリビンバ・システム)に影響を受けていたり、自著においても「ひょうきん族」的な笑いよりも「ドリフ」的な笑いが好きだといったことを書いており、ウチワ受け的なシュールさ・わかり辛さよりも、スラップスティックなシュールさ、脈略の無さそうに見える不条理さを嗜好しているに思う。本著にもあるが久世は「8時だよ全員集合」の演出も手がけていることに妙な符号を感じてならない。


話が逸れまくった。で、以上に関わらず他にも随所に久世を感じる瞬間というものがある。詳細を述べればきりが無いが、特に昭和的な家族とその周辺の在り様というものが、ドラマのセットなどで独特の雰囲気を醸し出している、と取れる瞬間。昭和レトロというキーワードで昭和的なる食卓も多くメディアでは散見されるが、久世のそれとは、感覚的なものなので言葉で表現できないが、明らかに別物に感じるのだ。
本著から初めて知りえたことなのだが、水曜劇場放映時にして、ああした食卓の風景は既に忘れられようとしていたものであり、時代は既に団地などでの核家族化が叫ばれていた。同局ということもあり、番組内でウルトラマンとリンクするという件があったが、そういえばウルトラセブンで象徴的に撮影されていた日常の風景は団地だった。


前置きが長くなりすぎたが、そんな自分と久世演出の関係にあって、本著は自分が振り返れなった時間の空白を埋めてくれるものとなった。と同時に、その空白が埋められることで、久世演出が輝いていた時代と思想、著者なりに久世演出を斬る事で、読者である自分なりの久世作品を見る方法論というものが見出せるんじゃないかという期待があったのだが、そこまでに至る事は無かった。
久世作品をほぼ時系列でまとめるだけでも大変なことだとは思う。一つの時代の流れを追うことで、その時々の記憶が読者それぞれに思い返されることだろうし、記憶の無いものには想像を掻き立てさせるものがあるだろう。しかし、久世本人と親交があった著者が膨大なインタビューからまとめられた割には、久世本人の言葉が少なく、著者から見た個人史観といった色合いが濃く、それも表面だけをなぞったような当たり障りの無い感慨に終始している。客観的に時代を俯瞰するには主観は排除された方がいいとは思うが、ならもっと資料的な側面が欲しい。多くを久世本人の言葉で組み合わせることで纏め上げることだって不可能ではないはずだ。関連レコードのジャケットなども掲載されているが白黒の小さな図版では物足りない。「あった!あった!」的に当時を振り返るにはいいツールかもしれないが、どっちつかずの中途半端な内容に、過剰な期待をした自分が悪いのか、後半読み進むにつれ猛烈な物足りなさでいっぱいになった。
敢えて具体的には挙げないが、久世関連の書籍はこれ以外にもいくつか出ている。個人的な興味から時間をかけて主要なものを読んでみたいが、それから、それらと比較して本著のポジションというものを捉えてみたいと思う。

←クリックいただけるととても喜びます

| | コメント (0) | トラックバック (1)

« 2007年5月 | トップページ | 2007年7月 »